日本獣医がん学会が認定する国内の腫瘍(がん)認定医の最上位資格です。
腫瘍(がん)認定医にはⅠ種とⅡ種があり、2020年4月現在Ⅰ種認定医は45名、Ⅱ種認定医は411名。Ⅱ種が腫瘍(がん)に対する知識を有する者に与えられるのに対し、Ⅰ種はさらに実践的に診断治療を行う能力があると認められた獣医師にのみ与えられます。
Ⅰ種認定医は全国的にも少なく、滋賀・京都では取得者は当院院長1人のみです(2020/04/現在)。

腫瘍(がん)の診断と治療には内科・外科領域を包括した専門的な知識、技術および経験が必要であり、自身の行う診療が客観的に正しく、かつ高い水準にあるかを確認するために取得した資格です。

滋賀県において全国的にも高い水準で、腫瘍(がん)の治療を提供できる動物病院となるよう尽力いたします。

腫瘍(がん)検査治療の、流れ。

腫瘍(がん)に対し、することは3つです。

① 腫瘍(がん)の具体的な名前をはっきりとさせ
② それがどのくらい体の中に広がっているのかを調べ
③ 過去のデータを元に先を読み、治療戦略を立てる

 ① 腫瘍(がん)の名前を、はっきりとさせる。

疫学

・動物の種類、年齢、避妊去勢の有無、既往歴、発生部位などから腫瘍(がん)の絞り込みを行います。
・腫瘍(がん)に対する過去のデータより、ある程度の予測を立てることで無駄な検査治療を省く一助ともなります。

細胞診

・ワクチン注射などに使用する細い針を用いて、腫瘍(がん)を構成する細胞を採取し、検査します。
・この時点で病名がついてしまう腫瘍(がん)も少なくありません。
・そのまま置いて様子をみてよいものなのか、お薬を使うのか、手術をするべきなのか、その他の検査が必要なのか、など次のステップへ進むための指針となる検査です。

▷利点:ほとんど痛くない、麻酔の必要がない。30分以内に診断がつく (ご家族の目の前で実施します)。
▷欠点:この検査では診断がつかない腫瘍(がん)が存在する。

検査精度が実施する獣医師の知識経験に大きく左右される検査ですが、動物への侵襲が少ないのに対し、得られる情報が多い、非常に価値の高い検査です。

組織生検

・細胞診が少ない量の細胞で判断をしていくのに対し、生検はブロック(大きな塊)で採取することにより、より高い精度で腫瘍(がん)の様々な情報を得ることができます。
・ほとんどの腫瘍(がん)の診断名を得ることが可能です。
・診断名以外にも悪性度(どれだけ悪いか)などの追加情報が得られることもあります。
・内視鏡検査、骨髄検査なども含まれます。

・遺伝子検査なども並行して行うことがあります。

▷利点:高い診断精度、追加情報。
▷欠点:全身麻酔が必要。縫合が必要なケースなどもある。

多くの場合、全身麻酔が必要な検査ですが、麻酔前の評価をしっかりと行うことでリスクや負担は最小にすることが可能です。
麻酔をかけることが難しいケースもあるため、その場合は別のプランを提案します。

 ② どのくらい体の中に広がっているかを、調べる。

以下の検査の中から必要なものを実施し、全身の評価を行います。

血液検査

レントゲン検査

エコー検査

心電図検査

CT・MRI検査

術後病理検査

腫瘍(がん)がどのくらい全身に広がっているかの評価=臨床ステージ分類を行うことで、適切な治療方針を立てることができます。
以下に続く、「何を目的にして治療していくのか」の判断のためにとても重要なステップです。
また、続く治療にあたり、麻酔などの負荷に耐えられるのか、の評価も兼ねています

③ 先を読み、治療戦略を立てる。

ここまでの検査で得られた情報を元に、 「何を目的に」 「どこまで治療するのか」 を決めます。

腫瘍(がん)は 治るものと治らないものがあります。はっきりと根治ができないものも存在し、積極的な治療を行うことが必ずしも是とはならないケースも多々あります。またご家族の考え方、生活スタイルも大切な判断基準となります。
これらを理解した上で、決して匙を投げることなく、動物本人・ご家族にとってプラスになる、と判断したときは難しいことにも果敢にチャレンジしていくよう、心がけています。

治療法は以下の中から選択、組み合わせて実施していきます。


外科手術

院長が最も得意とする分野です。
手術実績4500件以上。
・手術内容は実施前に図などを用いてご家族にしっかりと理解してもらい、また術中-術後のリスク、起こり得る合併症などについても知識および経験を元に詳細に説明をします。
・何でも手術をすれば良いというものでもなく、必要がないと判断した場合にはご家族が希望されてもしっかりと説明した上で、実施しないケースもあります。
・当院の設備、技術では手に余ると判断した場合には、すぐに他の高度医療施設を紹介します。治療は患者さんにとって最適の場所で受けることが、何より大切です。
・麻酔管理は、数分から12時間を超えるものまで、大学病院外科で正しく訓練を受けており、痛みの管理も複数の薬剤を使い分け適切に行います。

顔面の腫瘍(がん)。眼などの機能を温存しつつ、できる限り大きく切除、きれいに再建します。

ワンちゃん、ネコちゃんに比較的多い、乳腺の腫瘍(がん)。当院院長はこの腫瘍の治療経験が豊富であり、ほとんどは日帰り、手術時間も小型犬であれば30~40分程度で終了します。

ネコちゃんの背中にできた、大きな腫瘍(がん)。これも取ります。

お腹の中にできた、頭より大きな腫瘍(がん)。切除は容易ですが、その後の内科治療がより重要になることも少なくありません。


抗がん剤治療

抗がん剤治療(化学療法)には怖いイメージがつきまといますが、経験的には「やらなければ良かった」と言われたことは一度もありません。正しい知識と、一定の経験があれば優れた治療法となります。

副作用は怖いですが、具体的にどんなものがあり、いつ頃、どのようなことが起こるかなどをはっきりと説明します。ご家族がこれを前もって理解し、獣医師が事前の対策を立てれば多くは許容できないものではありません。

動物医療における抗がん剤治療(化学療法)は、適切に実施すれば入院が必要になるほどの副作用は5%未満となるようにデザインされているものが多く、朝お預かりしたら夕方には帰れることがほとんどです。飲み薬のみの抗がん剤治療も数多くあります。

抗がん剤投与後の3~7日に最も強く副作用が発現することが多いですが、理解した上で対策を立てることでほとんどの場合は許容できます。
薬の効果と、副作用のバランスをみながら場合によっては治療を止める判断ができることも重要です。

獣医学領域で使用する主な抗がん剤。注射薬から飲み薬までさまざまなものを適切に使い分けます。


放射線治療

全国的にも実施できる設備が限られており、2020年4月現在、滋賀県内には放射線治療実施可能な施設がないため、他県(大阪、岐阜、三重など)施設への紹介となります。
大学での放射線治療を実際に経験しているため、適応かどうかの判断、かかる費用や紹介先施設で実施する検査治療の内容などについて事前に詳しくお話することが可能です。
治療終了後の副作用(放射線障害)は複雑であり、このケアまでしっかりと行います。


その他(光線力学療法、免疫療法、支持療法、疼痛管理 など)

ただ延命するだけでなく、痛くない、苦しくない時間をどれだけ作ってあげられるのかも、腫瘍(がん)の治療ではとても大切なことです。

もう治してあげる事はできないけれど、痛そうで見ていられない、口の中が腐ってしまってご飯が食べられない、臭いが酷くて一緒にいられない、胸に水が溜まって息が苦しそう、塊から血が出てしまって止まらない、などの問題も多く、これらのケアも匙を投げずにしっかりと行ってはじめて腫瘍(がん)の治療です。

腫瘍(がん)の治療は動物においても日々進歩しており、多くの治療法があります。常に最新の情報知見を集めています。こんな治療法があると聞いたのだけれど、実際どうなの?といった質問も積極的にしてください。疑問や不安をしっかりと解消していくことも、治療と同じくらい重要です。自分の家族が最良の治療を受けているんだという安心感は、とても大切です。

痛みの管理にも様々な選択肢があります。これはシール型の強力な鎮痛薬で、3日程度効果が持続します。

その他 飲み薬、注射薬の痛み止めや鎮静剤。動物病院で日常的に使われるものから、麻薬指定のものまで様々なものを使い分けます。

胃チューブの設置。ご飯が食べられない、お薬が飲めない子に設置することで生活の質をあげます。

がんワクチン、光線力学療法。

最後に

このワンちゃんは診断を下した時点で余命2週間程度かもしれない、としたところを最終的には500日以上生きました。痩せているときも、ふっくらとしていたときも、診察台の上で常に凛としていたのが忘れられません。

特別な治療をしたわけではありません。元々データとしての生存期間には幅があり、長く生きる子が奇跡的、というわけでもなく、治療をした人間が名医、というわけでもありません。
ただ彼は手術や内視鏡検査を何度繰り返しても人懐っこく、毎日苦いお薬を飲む、ともすれば辛い治療にも非常に協力的でした。

ご家族にも忙しい中、頻繁に病院に通っていただきました。

そのことが高い生活の質と長い生存期間に繋がったのは、間違いないと思っています。

彼は2018年10月5日に亡くなりました。
患者さん、ご家族と一緒にがんばるとはこういうことなのか、ということを教えてもらった、とても大きな存在です。

がんは、最終的には亡くなってしまうことも多い病気です。
そういうとき、最後にできることは この人に診てもらったのであれば後悔はない と思ってもらえるような獣医師であり続けることだと、思っています。

腫瘍(がん)について
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