肝臓腫瘍
肝臓・胆管の腫瘍は、肝臓・胆管が由来の「原発性肝臓・胆管腫瘍」と他臓器で発生した悪性腫瘍が転移した「転移性肝臓腫瘍」に大きく分かれます。転移性肝臓腫瘍は全て悪性腫瘍であり、一般的に予後は不良です。原発性肝臓・胆管腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍にさらに分類されます。
原発性肝臓・胆管腫瘍はまれであり、転移性の方がより一般的で、2.5倍の発生率があります。肝臓の原発性悪性腫瘍は、組織学的・形態学的に以下の表のように分類されます。肝細胞癌は原発性肝臓・胆管腫瘍のうち犬では最も発生が多く、猫でも2番目に発生の多い腫瘍です。
犬の原発性肝臓腫瘍の分類と発生率
塊状型 | 結節型 | 浸潤型 | |
肝細胞癌 | 53-84% | 16-25% | 0-19% |
胆管癌 | 37-46% | 0-21% | 17-54% |
カルチノイド | 0% | 33% | 67% |
肉腫 | 36% | 64% | 0% |
肝細胞癌
犬において肝細胞癌は最も発生率が高く、約50%を占めます。肝細胞癌は悪性腫瘍に分類されますが、形態学的タイプにより転移率は大きく異なります。
症状
食欲不振、体重減少、嗜眠、嘔吐、多飲多尿、腹水(腹囲膨満)等が一般的ですが、重度の場合、黄疸、肝性脳症による発作も認められます。また、無症状で健康診断などで偶発的に発見されることもあります。
診断
肝臓腫瘍は転移性であることが多いため、全身のスクリーニング検査(血液検査、胸部X線検査、腹部超音波検査等)が必要です。腹部超音波検査は肝臓の腫瘤を発見するには非常に有用ですが、腫瘤が巨大な場合、重要な血管との関係性や他臓器への浸潤が明確には分かりません。詳細に形態学的タイプ、発生部位、重要な器官との関係性(主に、重要な血管や胆管)を把握するためにCT検査を実施し、手術可能か評価します。
治療
肝細胞癌は、形態学的に塊状型の場合、非常に大型の腫瘤を形成しますが、比較的進行が遅く転移率も低いため外科手術による肝葉切除が第一選択です。結節型や浸潤型の場合でも、腫瘍破裂が起きている場合や腫瘍によりQOL(Quality of life ; 生活の質)が著しく低下している場合には、緩和的な減容積のために肝葉切除を実施する場合があります。
予後
予後は肝臓腫瘍の種類や形態学的タイプにより大きく異なります。塊状型の腫瘍に対する外科的切除後の予後はよく、完全切除ができない症例でも局所再発による臨床症状が再燃するまで比較的長期間良好な状態を維持できるとの報告があります。塊状型の腫瘍に比較して結節型や浸潤型の腫瘍では完全切除が難しく、転移の可能性が高いため予後が悪いことが知られています。